「高齢者の在宅生活を、当たり前の選択肢に」 定期巡回で実現したいこれからの社会のかたち。
インタビュー

高齢者の方が望めば、在宅生活という選択肢を選ぶことができる。それ以外の将来世代も含めて、どんな環境であっても自分の人生を決められる状況を作れる社会づくりをしたいと考えています。
「どんな人でも、自分の人生を決められる世界」をビジョンに掲げる、スリーエス株式会社。代表を務める千田は、前職で東北の復興事業に関わる中で、セーフティーネットとしての介護の重要性に気づき、介護事業を立ち上げた人物だ。スリーエスが取り組む新しい介護サービス「定期巡回」について、その背景とこれからの展望を伺った。
復興の現場に立ち、芽生えた介護への気持ち

元々学生時代にインターンをした経験から、社会課題をビジネスで解決するという考え方・アプローチに関心が高く、「自分でもいつか起業したい」という気持ちがありました。
大学時代に複数のベンチャー企業で長期インターンシップを経験したことで、「今ある職業ではなく、新しい事業・会社作りを通じて、社会課題を解決する」というアプローチがあることを体感したという千田。様々なインターンを経験後、医療系ベンチャーに新卒入社した2011年に起こったのが東日本大震災だった。
私は青森県出身なので、やっぱり東北のために何かしたいという気持ちはありましたね。当時日本で、それ以上に重要な課題はないんじゃないかなと思いました。
千田は2013年、学生時代にインターン生として勤務した東北復興支援事業を行う法人に入社。復興のための取り組みを通して様々な課題に直面する中でも、高齢化に伴う課題に行き着くことが多かったという。

元々高齢化が進んでいた東北において、震災を機に高齢化率が50%を超えるような地域もありました。高齢化というテーマに取り組まないと持続可能な地域づくりは中々難しいのだと感じましたし、そしてそれは東北だけでなく、他の地域でもいずれ来る社会像なので、ならばその領域の課題解決に資する介護や医療のテーマに注力していきたいと考えるようになりました。
そうした複合的な関わりの中で、自身の中に介護への矢印が芽生えた。そこからどのようにして、定期巡回という介護の形に至ったのだろうか。
はじめは介護施設を見学させてもらったり、ボランティアをして150程の施設をまわりました。そんな活動の中で、自立支援を理念に掲げる介護保険において、そうではない現場が一定数あるという実態にギャップを感じました。現場の方々や管理者の方が手を抜いているわけではなく、むしろ懸命に仕事をしているにも関わらず、そうした状況になっているというのは構造の問題だと感じました。その後は自然と、その業界構造を変えるような取り組みがしたいという使命感で、介護業界で事業を進めることになりました。
そんな想いのもと、2019年にスリーエス株式会社を創業。当初は介護職員と施設とミスマッチをなくすための採用支援事業、保険外の訪問介護などの事業を行いながら、試行錯誤の日々だった。そんな最中、千田は「定期巡回」というサービスに出会うこととなる。
埼玉の定期巡回事業所に転職をした方に話を伺う機会があったり、採用支援事業をしている頃に出会った方が「神戸で定期巡回を行っている事業所があるから一緒に見学に行きませんか?」と声をかけてくれて。初めて定期巡回というものに触れて抱いたのは、選択肢が施設中心となっている介護業界の中で、定期巡回があれば本当に「在宅で最期まで」というケアが実現できるんだという確信でした。
まだまだ知られていない定期巡回の可能性
これまでは様々な要因で在宅生活を諦めていた高齢者にも、「在宅で支援を受ける」という選択肢を提供できる定期巡回。千田は、そのサービスにどのような魅力を感じているのだろうか。
利用者の24時間の生活をトータルで支援できるという点です。事業者が要所ごとや曜日ごとにしかケアに入らない訪問介護などとは異なり、24時間の関わりの中で「朝昼晩どんな風に何を食べて」「どういう薬を飲んで」「どういう生活を望んでいるか」などを知った上で、その方に本当に合うケアができる点が魅力です。
また、定期巡回はいいケアをしたい想いを持っている介護職員にとっても魅力的だと話す。
定期巡回ではケアマネジャーと計画作成責任者による「共同ケアマネジメント」が進められますが、そのプランニングにおいて裁量を持てることが非常にいいなと感じています。ケアマネジャーが練るプラン通りに入る訪問介護とは違い、一緒にアセスメントしながら、どんな形でケアを提供するのがいいのかを自分たちでコーディネートできる余地がある。利用者のために「合うケアをしたい」と考えている職員にとっては魅力です。
在宅の高齢者が望んでいることは、何も介護だけに限らない。保険外の訪問介護を行っていた経験からもそう感じることは多かった。「定期巡回をベースにしながらも、介護保険にこだわらず、いろんなニーズに応えることができる事業として発展させることができる可能性があり、そこが最大の面白さだと思う。」と語る。
定期巡回を通して見据える社会の未来

「社会課題を解決するような仕事を」という想いを芯に持ち、事業を続けてきた千田。定期巡回というサービスを通して見据える社会の未来とは、どんな景色なのだろうか。
社会の影響という意味ではまず、高齢者の方が望めば在宅生活という選択肢を選ぶことができるようになるのが大前提として大事だと思っています。さらに施設を建てるというのは、やっぱり社会的にも本人のコスト的にもお金がかかります。金銭の不安がなく家に居続けられるということは、社会的に介護や高齢者に関わるコストだけではなく、個人が介護に使うお金も適正化できると考えています。
老後2,000万円問題なども叫ばれる現代社会で、漫然とした老後への不安を誰しもが抱えている。誰もが在宅で最期まで過ごせるようになり、社会的にも社会保障費が適正化されることで、将来世代や子供の支援も含めて、厳しい環境の人にお金が回っていくことも可能なのではないか。そんな未来を想い描いている。さらに千田は「介護職の働き方や可能性、価値の出し方としても大きな変化がある」と続ける。
利用者が在宅でどう過ごすかをコーディネートする過程において、介護職員が利用者との関係を築き、望みを引き出していくという部分に色が出ていくのが理想的だと考えています。そんなコーディネーターが増えることで、地域の高齢者に「どんな状況になっても、この人たちに相談をすれば、自分に合うケアを受けられる」と思ってもらえることが、本当の意味でのセーフティーネットだと思っています。ですので、介護職の人たちは事業所に閉じずに、高齢者や地域に向けて価値を出していく存在になっていって欲しいと考えています。
未来への明確な想いを持ちながら、定期巡回を軸に発展を続けるスリーエス株式会社。最後に、求職者について伝えたいことを聞いてみた。
まずは定期巡回という存在を知ってほしいというのが一番です。まずは知って、話を聞いてもらえれば「こういうことなんだ」とか「面白そう」と思ってもらえるという実感があります。関心の入り口は何でもいいので、話を聞くテーブルについて頂けたら嬉しいですね。定期巡回は介護福祉士の専門性を発揮できる仕事なので、そこを突き詰めてやっていくということに関しては、非常に良い場を提供できると思います。ぜひ体感してほしいです。